口腔乾燥症(ドライマウス)
高齢者のおよそ4分の1は「口の中が乾いている」「唾がネバネバする」といった口腔乾燥を自覚していらっしゃるようです。一見、単純そうに思えるこの症状、実は色々複雑だったりもします。今回は口腔乾燥症の原因や対処法についてお話していきます。
唾液(つば)はどこで作られる?
唾液の9割ほどは大唾液腺と呼ばれる、顎下腺、舌下腺、耳下腺から作られます。このうち、顎下腺と耳下腺でつくられた唾液は口底部(下の前歯の裏側)から排出されるので、ここが最も唾液が出てくる部分です。残りの1割ほどは小唾液腺から作られますが、これは唇や口、喉のあらゆる粘膜に散在しています。一日につくられる唾液の量は、健康な成人で1日1~1.5リットルと言われています。唾液の99.5%は水分ですが、残りの0.5%は様々な役割を持っています。
①無機成分(カルシウム、リン酸など)⇒歯の再石灰化
②消化酵素(アミラーゼ)⇒消化作用
③ムチン(粘性のタンパク質)⇒粘膜の保護
④抗菌物質(ラクトフェリンなど)⇒抗菌作用
口腔乾燥症の原因は?
高齢者に多く発現する口腔乾燥症ですが、原因は様々で人によってバラバラです。
①シェーグレン症候群
自己免疫疾患の一種で、免疫が唾液腺や涙腺を攻撃することによって、機能低下します。ドライアイを伴うことが多いですが、診断にはいくつかの精密検査を要するので、専門機関への受診が必要です。
②全身疾患(糖尿病、腎疾患、肝炎、脱水症など)
③ストレスなどによる自律神経の失調
④唾液腺自体の異常(腫瘍、放射線治療など)
⑤口唇、頬、舌、咀嚼筋などの口腔機能(オーラルフレイル)の衰え
⑥薬剤による副作用
最も多い原因といわれていて、長期にわたって複数の薬剤を服用している人に起こりやすいです。原因となりうる薬剤は抗うつ剤や降圧剤など多岐にわたっていて、説明書の副作用の欄に口渇と書かれている薬品は非常に多いです。
⑦開口状態、口呼吸(特に就寝時)
実際に唾液の分泌量は減っていない場合が多いですが、口の中の水分が蒸発するため乾燥状態に陥ります。
口腔乾燥症による弊害
口の中が乾燥することによって、さまざまな弊害を及ぼします。
①虫歯や歯周病になりやすくなる
唾液の量が低下することによって自浄作用が働かなくなり、虫歯や歯周病の原因になるプラーク(歯垢)が付着しやすくなります。
②口内炎になりやすくなる
唾液には粘膜を保護・保湿する成分も含まれるため、唾液の減少により粘膜が傷つきやすくなります。
③入れ歯が外れやすくなる
唾液には入れ歯を粘膜に吸い付かせる役割も果たしています。
④味覚障害
舌に存在する味を感じる組織(味蕾)へ味刺激が到達しにくくなります。また、舌の汚れ(舌苔)が付着しやすくなり、これも味覚障害の原因となります。
⑤嚥下(飲み込み)障害
食べ物が口の中でまとまりにくくなるため、口から喉への送り込みが難しくなります。誤嚥性肺炎も引き起こしやすくなります。
⑥発音障害
舌や唇が乾燥することで動きが悪くなり、声が出にくくなります。
⑦口の中の違和感
口内炎などの異常が認められないにもかかわらず、痛みや不快感を自覚する状態を引き起こしやすくなります。よくある症状が、舌のヒリヒリ感(舌痛症)です。
口腔乾燥症かどうか確かめるには
口腔乾燥症の自覚症状としては口の乾燥感や唾液のネバネバ感が主に挙げられますが、実際に唾液が出ているかどうかと必ず相関しているとは限りません。唾液が出ているかどうかを客観的に評価するには、分泌量を測定する必要がありますが、いくつか方法があるので紹介していきます。
①吐唾(とだ)法
安静の状態で口の中にたまってくる唾液をコップに吐き出してためていく。⇒10分間で1ml以上の唾液がたまれば正常。
②サクソンテスト
ガーゼや綿の重さを事前にはかっておき、そのあと口に含んで噛みつづけて唾液を染み込ませていく。⇒2分後に重さを比較する。2分間で2g以上重さが増加すれば正常。
③ガムテスト
ガム(できれば無味無臭)を10分間噛んで、その間にたまる唾液をコップに吐き出してためていく。⇒10分間で10ml以上の唾液がたまれば正常。
これらのテストで基準を下回ると、客観的に見て唾液の分泌が少ないと判断できます。
口腔乾燥症の治療法は?
残念ながら根本的な治療は難しく、対処療法が中心です。また、原因によっても対処法は変わってきます。
①保湿剤の使用
口が乾いてるからといって水ですすぐといった行為を何度も繰り返すと、唾液の成分も洗い流してしまうため、かえって逆効果になります。なので、唾液の成分を補うためにも保湿剤がおすすめです。さらっとしたスプレータイプの保湿剤やジェル状の保湿剤などがあります。
②薬物療法
前述のシェーグレン症候群に対しては、専用の治療薬があります。処方するには検査によって確定診断を受ける必要がありますので、専門機関の受診が必要です。それ以外のケースでは漢方薬が有効な場合があります。
③飲んでいる薬の検討
降圧剤や向精神薬、抗うつ剤は副作用による唾液減少を引き起こしやすいので、薬剤の変更や量の調整を担当医に相談します。
④口呼吸対策
就寝時などでマスクを装着することによって、口の中の水分の蒸発を防ぎます。
⑤唾液腺マッサージ
大唾液腺をマッサージすることによって、唾液の分泌を促します。食前に行うことが効果的です。
耳下腺:耳の下、顎骨の裏側あたりを人差し指から小指までの4本の指で前に押しながら10回程度回転させます。
顎下腺:顎の下の後ろの方にあり、クルミ程度の大きさで触知できます。この部分を指で下から押し上げるように10回程度回転させます。
⑥その他トレーニング
衰えた口腔機能の回復を目的とします。
舌運動のトレーニング:「舌の前方突出およびそこから左右に振る」「舌の先を上顎や頬にあてる」
口唇・頬のトレーニング:「口唇の尖らせ」「口角を引く」「頬を膨らませる」「吸い込み」
※各運動を10回ワンセットとして1日3セット行う。
咀嚼機能の回復:歯科治療によって固形物を噛める状態にする。食事時によく噛む。
唾液は健康のバロメーターで、胃腸や全身の代謝とも関係していると言われています。ストレスとも関係していると言われているので、気になる人は一度診てもらうことをお勧めします。