歯は消耗品
皆さんは8020運動をご存じですか?これは1989年から始まった、「80歳になっても20本以上歯を残そう」という運動です。この運動が始まったころは、達成率は10%にも満たないものでしたが、2016年の時点では50%まで増加してきています(大分県では約55%)。
昔と比べるとかなり改善していますが、世界的にみるとまだまだ遅れています。(80歳前後の平均残存歯数が日本では約14本なのに対して、歯科の先進国といわれるスウェーデンでは約21本)スウェーデンでは政府が予防中心の歯科医療を積極的に取り組んだ結果、国民全体の歯科に対する予防意識が向上して、子供の歯科受診率は100%近くまで及んでいるからです。では、なぜ予防が大事なのか?というと答えは「歯が消耗品」であるからなのです。
歯を失う、もしくは抜歯に至る2大要因が「虫歯」と「歯周病」です。まず虫歯についてですが、日本では小さいころから虫歯を作ることが多く、虫歯によって溶かされたり、治すために削った部分は欠損となります。この欠損は自然に再生することは決して起こらず、詰め物やかぶせ物で補うことになります。補った後も、詰め物と歯の間から虫歯菌が侵入するため再度虫歯になり、削って詰めてを繰り返すうちにだんだんと歯が小さくなっていきます。また、痛みが出るほどの大きな虫歯を作ってしまった場合は神経を取ることになる可能性が高く、神経と一緒に走行する血管もとることになるため、そうなった歯には栄養が行き届かなくなって神経を取っていない歯と比べて非常に脆くなります。歯の頭(上半分)がなくなってしまったら、今度は歯の根(下半分)に芯棒を入れた土台を作ってその上にかぶせ物をつくります。そうこうしているうちにどうなるかというと、噛む力に歯が負けてしまって歯の根が割れてしまいます。根が割れたらその周りに菌が容易に侵入しますので、腫れや痛みが出ます。基本的に歯が割れてしまったら治療不可能ですのでその際は抜歯せざるを得なくなります。また、歯が割れなくても、歯が虫歯によって小さくなり過ぎたら土台を作るのが困難になりますので(無理矢理作れなくはないですが、すぐに割れると予想します)、その場合は抜歯判断となります。
歯周病の場合は、進行することによって歯の周りの骨が溶かされます。歯と違って骨は再生させる手段があるにはありますが、現在の医療技術で骨を再生させられる場面は限られているうえに、元通りにするのはほぼ不可能なので、多くのケースは再生困難と考えてもらった方がいいです。骨が溶かされ続けると次第に歯を支えられなくなってきて、グラグラし始めて最終的には自然に抜け落ちます。
虫歯と歯周病、共通しているのは「一度失ったものは元には戻らない=消耗品」ということです。悪くなったあとで慌てても元通りにはならないから、最初の段階で悪くならないようにするために予防が大切なのです。
ちなみに、歯一本あたりにどのくらいの価値があると思いますか?歯に値札が付いているわけではありませんから、その辺りの捉え方は人それぞれだと思います。インプラントであれば、1本あたり30~40万くらいが相場だと思いますが、インプラントはあくまで人工物で、機能的にも天然の歯に劣りますので、歯の価値はそれをはるかに上回ると思います。国内でのある事故による歯の損害賠償では、1本あたり80万円の計算だったそうです。通常、人の口の中には28本の歯がありますから(親知らずは除く)、80万×28=2240万円の資産を予め持っていることになります。人は生涯でこの資産を徐々に削りながら、食生活を送っていることになります。資産をあっという間に失ってしまうか、死ぬまで残せるかは、それぞれがどれだけ歯を大事にできるかで変わってきます。ですので、普段からしっかり歯みがきに取り組んで、資産をなるべく失わないようにしましょう!