舌痛症(舌のヒリヒリ)
R5.8.10
舌にヒリヒリとした痛みを感じたことはありますか?舌が痛くなる場合、口内炎ができているケースが多いですが、外見上特に異常がなくても舌が痛くなる舌痛症と呼ばれる病態がありますので、今回はそれについて解説していきます。
舌痛症とは?
舌痛症は別名バーニングマウスシンドローム(口腔灼熱症候群)といい、舌にヒリヒリ、ピリピリとした痛みを感じるのが最大の特徴です。通常、口内炎などの異常がある場合は見た目に変化が起こりますが、舌痛症においては見た目の変化はほとんどありません。そのため、上記を訴えて受診しても、舌痛症に詳しくない先生だと異常なしで済まされる場合があります。他の舌痛症の主な特徴は以下の通りです。
・中年以降の女性、神経質な人が発症しやすい
・味覚異常や口の乾燥を伴う場合がある
・症状が長期的に持続する場合が多い
舌痛症の痛みの性状
・舌の先っぽやへりの部分に痛みを感じることが多い
・症状は慢性で持続的だが、朝から夕方にかけて強まる場合がある
・痛み止めを飲んでも症状が治まらない
・口内炎は食事などの刺激で痛みが強まるが、舌痛症にはそれがない
・舌以外の部分(口唇、歯茎、口蓋など)に症状が起こる場合もある
舌痛症の原因
はっきりとした原因はわかっていませんが、いくつか考えられる要因やきっかけがあります。
・日常のストレス:最も大きな要因と考えられています。症状で悩む期間が長ければ長いほどストレスが重なって改善しにくくなると言われています。
・癌恐怖症:本やテレビ、ネット記事などで癌の恐怖を煽られるのを契機に発症するパターンがあります。また、舌の付け根付近に存在する組織(葉状乳頭、有郭乳頭、舌扁桃)を腫瘍ができたと考えてしまう場合もあります。舌に癌ができているのじゃないかという訴えで来院されますが、きちんと癌ではないことを説明して問題ないと安心していただければ比較的すぐに症状が改善することが多いです。
・歯科治療:歯科疾患や口内炎を治療して治す過程で、痛い思いをした場合、原疾患が治癒した後も舌痛症として症状が残る場合があります。また、かぶせ物や詰め物をやり替える場合、依然と全く同じものにはなりません(口の中の環境の変化)。通常はそういった変化に慣れて受け入れるのがほとんどですが、ストレスを抱えている方や神経質な方が受け入れられないことによって舌痛症を発症する場合があります。こういった発症のケースは症状が長期化することが多いです。
・口の乾燥:唾液にはムチンと呼ばれる粘膜を保護する作用をもつたんぱく質が含まれています。唾液の量が減ることによって、粘膜が微細な刺激に対して弱くなり、舌痛症を発症しやすくなると言われています。
舌痛症と区別するべき他の疾患
舌痛症以外にも見た目に変化が乏しいにもかかわらず舌に痛みを感じさせる病因がありますので、区別する必要があります。
・カンジダ症:カンジダは口の中に常在する真菌ですが、何らかの原因で異常増殖した際に舌痛症と似たような痛みを感じさせます。口の中に白い膜をはってる場合や、舌の乳頭(小突起)が委縮して赤みを帯びる場合が多いですが、見た目の変化に乏しい場合もあります。カンジダが原因の場合、抗真菌薬の投与で症状が改善します。
・栄養不足:鉄分やビタミンB12の欠乏により起こる貧血の症状の一つに、舌が赤みを帯びてヒリヒリとした痛みが生じることがあります。また、亜鉛不足は味覚障害の原因になりますが、舌の痛みを引き起こす場合もあります。
舌痛症の治療
舌痛症は前述のとおり原因が明確ではないので、はっきりとした原因療法は確立されていません。いくつかの治療法を試したり、組み合わせることで徐々に改善を図ります。
・認知行動療法:現在の口の中の状況を含め、舌痛症に対する理解を深めることが第一です。規則正しい生活や十分な睡眠、適度な運動を行うことでストレスが緩和され、症状の改善が期待できます。また、一人で家の中でじっとしていたりすると、舌の症状ばかり気にしてストレスを感じ、悪循環に陥ってしまいます。楽しいことをしたり、何かに他のことに集中している時間は舌の症状を感じずに済むといった傾向がありますので、そういった時間を増やすように心がけるのも効果的です。
・薬物療法:抗不安薬や抗うつ薬を服用することによって、一定の割合で症状が改善すると研究で明らかになっています。また、一部の漢方薬でも症状改善が期待できます。
・口腔内清掃、うがい薬:口の中のプラークや歯石を除去して清潔な状態を保つことで症状が緩和される場合があります。また、うがい薬を使用すると爽快感が得られ、それによって改善する可能性もあります。
・唾液分泌促進:口腔乾燥症の対策をとることでも症状改善が期待できます。⇒参考記事:口腔乾燥症
舌痛症の経過は多岐にわたっており、何もしなくても自然に軽快する場合もあれば、色々な手を施しても数年に渡って悩まされる場合もあります。一方、稀とはいえ本当に癌などといった重大な疾患が発生している可能性も否定はできず、ご自身での判断は難しいと思います。もしも、舌にヒリヒリする症状があって気になる方は一度相談に来てみてください。