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歯を抜いた後に起こる強い痛み
​(ドライソケット)

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 当たり前の話ですが、歯を抜いて麻酔が切れると痛くなります。そういった痛みを緩和するために痛み止めを飲んでもらうのですが、通常であれば歯を抜いた後の痛みは2~3日もすれば治まります。しかし、時には痛み止めが効かないくらいの激しい痛みが出たり、1週間以上も痛みが続いたり、あとから痛みが出てくるようなケースもあります。こういったケースの大半はドライソケットと呼ばれる状態が原因となっています。今回はそのドライソケットについて説明していきます。

 

ドライソケットとは

 ドライソケットとはざっくりと言うと、文字通りに抜いた後の穴が乾燥している状態を指します。具体的に説明すると、歯を抜くとはじめはその部分の骨がむき出しの状態になり、そこに血がたまって固まります(血餅・けっぺいの形成)。血餅とはかさぶたのようなもので、そこを足場にして徐々に再生してくる粘膜で骨が覆われていくのが通常の治癒過程となりますが、ドライソケットになると、血餅が形成されずに骨がむき出しのままの状態になります。むき出しになった骨は外部からの刺激に弱く、表面に強い炎症が起こり、これが強い痛みの原因となっているのです。

 ドライソケットが起こる原因について、ひとつは抜いた直後にうまく血がたまらずに血餅が形成されなかったことが挙げられますが、血餅が形成されていてもドライソケットになる場合があります。感染などによってはじめから周りの骨に炎症が起きていると、血流が悪くなってせっかくの血餅が維持できずに溶かされてなくなってしまうのがもう一つの原因です。

 ドライソケットは抜いた部位によって起こりやすい部分と起こりにくい部分があります。圧倒的に起こりやすいのが下の奥歯、特に親知らずを抜いた場合で、反対に上の歯を抜いてドライソケットが起こることはほとんどありません。これは上顎と下顎の骨質の違いによるもので、下顎は上顎と比べると骨が硬く、そのぶん血の流れが少なくなっています。下顎でも奥歯の方向に向かうほど骨質が硬くなっていき、親知らずの周りは特に硬くて血流が少ないのでドライソケットが起こりやすくなっています。なので、下の親知らずを抜いた後は特に注意が必要です。

 ドライソケットが起こる確率について、文献によって差はありますが、下の親知らずを抜いた場合だと15%~35%程度と言われています。体質や骨質には個人差がありますので、ドライソケットになりやすい人、なりにくい人もいます。例えば右下の親知らずを抜いた際にドライソケットになった人は左下の親知らずを抜いた後にもドライソケットになりやすいです。また、抜く前に周りの歯ぐきが腫れていたり痛んでいる場合もドライソケットになりやすいです。他にも喫煙している方は血流が悪くなりますので、非喫煙者と比較してドライソケットのリスクが高いです。 

抜歯後の治癒過程
ドライソケット

ドライソケットの治療法

 結論から言うと即効性のある根本的な治療は難しく、自然治癒を待つ形での対症療法がメインになります。再掻把術といって、抜いた穴を再び傷つけることで出血させて血をためる治療法がありますが、前述のとおり骨に炎症が起きていると血餅が溶かされて再度骨がむき出しになってしまい、骨折り損になる可能性が高いため​当院では行っていません

 周りの骨に起きている炎症は時間の経過とともに徐々に治まっていき、それに伴い痛みもなくなり粘膜も再生していきます。なので、対症療法はそこに至るまでの期間、痛み止めを長めに飲んでいただくことになります。また、抜いた穴に直接薬を入れることでも炎症を抑えて痛みを和らげます。よく「化膿止めは飲まなくてよいのか?」と聞かれますが、化膿止め自体に炎症を抑える作用はないので、傷口がひどく感染しない限り飲む必要はありません。治るまでの期間も個人差があり、早ければ1週間程度で治まりますが、たまに長引く人は1ヶ月以上かかる場合もあります。 

 

​ドライソケットを予防するには

 ・抜いた直後はうがいを控える:うがいをすると固まりかけた血が流れ出てしまい、血餅が形成されにくくなります。抜いた当日は特にグチュグチュうがいはしないようにしましょう。また、歯磨きの際に歯磨き粉を用いるとうがいの量が増えますので、抜いた日の歯磨きは歯磨き粉を使わずに歯磨きしましょう。

 ・傷口を触らない:物理的に血餅がはがされてしまう可能性があります。また、指などで直接触れるのは不潔で、炎症が起こるリスクが高くなりますので、気になっても触らないようにしましょう。

​ ・抜いたほうが良い歯は早めに抜く:親知らずで腫れたり治ったりを繰り返していると、段々と周りの骨が硬くなる場合があります。そうなるとドライソケットのリスクが高くなるので、我慢せずに早いうちに抜いたほうがリスクは抑えられます。

 ・歯を抜く前後は喫煙を控える:前述のとおり、喫煙は血の流れがわるくなりますので、ドライソケットのリスクが高まります。なので、歯を抜く前後の数日間は喫煙を控えたほうが良いです。

 下の奥歯を抜いてしばらく経っても強い痛みが続く場合はドライソケットの可能性が非常に高いです。しかし、傷口に細菌感染を起こして膿んでいる場合もありますし、非常に稀ではありますが悪化して骨髄炎になる場合もありますので、気になる方は歯医者で一度見てもらうようにしましょう。

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